『有事の金』は本当か?過去20年の金価格データを振り返る

はじめまして、メーカーで経理をやっている宮田と申します。
社会人になってから15年、ずっと数字と向き合ってきました。

iDeCoや積立NISAで資産運用を始めたのが5年ほど前。
そこから投資の世界に少しずつ足を踏み入れて、ここ2年ほどは「金」に強い関心を持っています。

きっかけは、ニュースで「有事の金」というフレーズを繰り返し耳にしたことでした。
コロナ、ウクライナ侵攻、円安。
不安なニュースが続くたびに「金が買われている」と報じられる。

本当にそうなのか。
経理マンの性分として、感覚ではなく数字で確かめたくなりました。

この記事では、過去20年分の金価格データを実際に並べて、「有事の金」がどこまで事実なのかを検証します。
金投資に興味はあるけど踏み出せていない方にとって、判断材料のひとつになれば嬉しいです。

そもそも「有事の金」とは何か

「有事の金」とは、戦争や金融危機、パンデミックなど社会が大きく揺れる局面で、金の価値が見直されるという経験則を表した言葉です。
株式や債券が売られる場面でも、金は値崩れしにくい。
むしろ買われて価格が上がることが多い。
そうした歴史的な傾向から生まれたフレーズです。

金が「安全資産」と呼ばれる理由

金が安全資産とされる根拠は、大きく3つあります。

  • 金そのものに普遍的な価値がある(どの国でも通貨と交換できる)
  • 発行体が存在しないため、企業の倒産や国家の信用不安に左右されない
  • 地球上の埋蔵量に限りがあり、紙幣のように無限に増やせない

株式は企業が破綻すれば紙くずになります。
国債も、発行国の信用が揺らげば価値が下がります。
でも金は、数千年にわたって世界中で「価値あるもの」として扱われてきた実物資産です。

さらに、金は国境を越えて換金できます。
どの国に行っても「金」は「金」として認められる。
この普遍性は、他のどんな資産にも真似できない金の最大の強みです。

この「最後の拠り所」としての信頼感が、有事に金が買われる最大の理由です。

金価格を動かす主な要因

金価格は単純に需要と供給だけで決まるわけではありません。
堂島取引所の解説によると、主に以下の6つの要因が複雑に絡み合っています。

要因金価格への影響
為替(ドル円)ドル安・円安で上昇しやすい
金利水準金利が下がると金が買われやすい
インフレ物価上昇局面で金の需要が増える
需給バランス宝飾品・工業需要・投資需要で変動
中央銀行の売買各国の外貨準備としての金購入が影響
地政学リスク紛争やテロで「有事の金」買いが発生

この6つの中で「地政学リスク」がいわゆる「有事の金」に直結する要因です。
ただ実際には、複数の要因が同時に動くことがほとんどなので、「有事だから上がった」と単純に結論づけるのは注意が必要です。

過去20年の金価格推移を数字で追う

では、実際に数字を見てみます。
以下は田中貴金属工業が公開している年次金価格データから、2005年〜2025年の年間平均価格(税抜参考小売価格)を抜き出したものです。

平均価格(円/g)前年比
20051,619
20062,287+41.3%
20072,659+16.3%
20082,937+10.5%
20092,951+0.5%
20103,477+17.8%
20114,060+16.8%
20124,321+6.4%
20134,453+3.1%
20144,340-2.5%
20154,564+5.2%
20164,396-3.7%
20174,576+4.1%
20184,543-0.7%
20194,918+8.3%
20206,122+24.5%
20216,402+4.6%
20227,649+19.5%
20238,834+15.5%
202411,718+32.6%
202517,302+47.6%

2005年に1グラム1,619円だった金が、2025年には17,302円。
20年間で約10.7倍です。

さらに2026年に入ってからは税込で1グラム29,000円台を記録する場面もありました。
6月時点では23,000円台で推移しており、調整が入りつつも依然として高値圏にあります。

テーブルを見ると、毎年一直線に上がっているわけではないことがわかります。
2014年や2016年のように前年比マイナスの年もある。
でも長期で見ると、右肩上がりのトレンドは明らかです。

もうひとつ注目したいのは、上昇のペースが後半にいくほど加速していること。
2005年〜2019年の14年間で約3,300円の上昇に対して、2019年〜2025年のわずか6年間で約12,400円も上がっています。
特に2020年以降の伸び方は、それまでとは完全に別のステージに入った印象です。

「有事」のたびに金はどう動いたか

ここからが本題です。
過去20年間に起きた主要な「有事」と、金価格の動きを照らし合わせてみます。

2008年:リーマンショック

2008年9月、米国の投資銀行リーマン・ブラザーズが経営破綻。
世界中の金融市場がパニックに陥りました。

実はこのとき、金価格も一時的に下落しています。
2008年前半に1グラム3,200円台だったのが、10月には2,400円台まで落ちました。
「有事なのに下がるのか」と思うかもしれません。

理由は、投資家が現金を確保するためにあらゆる資産を売却したからです。
金も例外ではなかった。

ただ、その後の動きが重要です。
2009年以降、各国が大規模な金融緩和に踏み切ると、金価格は急速に回復。
2011年には4,060円まで上昇しました。

リーマンショック前の2005年時点で金を買っていた人は、この一時的な下落を経ても、2011年には資産が2.5倍になった計算です。

リーマンショックの教訓は、「有事の直後は金も売られることがある。でも、その後の回復局面で大きく買われる」ということです。
目先の値動きに一喜一憂せず、腰を据えて持ち続けた人が報われた局面でした。

2011年:欧州債務危機と米国債格下げ

2011年は金にとって象徴的な年でした。
ギリシャを中心とした欧州債務危機が深刻化し、同年8月には米国債が史上初めて格下げされました。

国債すら安全ではないという衝撃が世界を走り、投資マネーが金に殺到。
国際価格は1トロイオンス1,900ドルを突破し、当時の史上最高値を更新しました。
国内価格も年間平均4,060円と、初めて4,000円台に乗せています。

経理の仕事をしていると「信用リスク」という概念に触れる機会が多いのですが、2011年はまさに世界規模で信用リスクが顕在化した年でした。
「通貨も国債も信用できない」という極限的な不安が、金の価値を押し上げた典型例です。

2020年:コロナショック

2020年3月、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大で株式市場が暴落。
リーマンショックのときと同様、初期段階では金も売られました。

しかしそこからの反転が早かった。
各国の中央銀行が過去最大規模の金融緩和を実施し、市場に大量のマネーが供給されました。
「お金の価値が薄まる」という懸念から、金が猛烈に買われ、2020年8月に国際価格は初めて1トロイオンス2,000ドルを突破。

国内の年間平均価格も前年比+24.5%の6,122円へ急伸しています。
この年、金投資を始めた人はかなり多かったはずです。
自分が金に興味を持ったのも、まさにこの頃のニュースがきっかけでした。

コロナショックは、リーマンショックとはまた違う教訓を残しました。
「金融緩和によるマネーの膨張」という構造的な変化が、金の価格水準を一段引き上げたということです。
単なる一時的な有事買いではなく、通貨の信認そのものが揺らいだ結果の上昇でした。

2022年:ロシア・ウクライナ侵攻

2022年2月、ロシアがウクライナへ軍事侵攻を開始。
地政学リスクが一気に跳ね上がり、金は再び買われました。

加えて、ロシアへの経済制裁をきっかけに、各国の中央銀行が「ドル離れ」を意識して金の保有量を増やす動きが加速。
中国やインドをはじめとする新興国の中央銀行が、外貨準備に占める金の割合を引き上げました。

この「中央銀行の金買い」は、個人投資家の動きとは別次元の規模で金価格を押し上げる要因になっています。
2022年の国内平均価格は7,649円で、前年比+19.5%の上昇でした。

2024〜2026年:史上最高値の更新が続く

2024年以降の金価格上昇は、過去20年の中でも突出しています。
2024年の国内平均は11,718円(前年比+32.6%)、2025年は17,302円(前年比+47.6%)。

2026年1月には税込で1グラム29,000円台を記録し、史上最高値を更新しました。
6月現在は23,000円前後で推移していますが、それでも2年前の2倍以上の水準です。

背景にあるのは、複数の「有事的要因」が同時に重なっていること。

  • 世界各地で続く地政学的な緊張
  • 主要国の財政赤字拡大による通貨への不信感
  • 中央銀行による継続的な金買い増し
  • 歴史的な円安(1ドル159円台)による国内価格の押し上げ

もはや単発の有事ではなく、「有事が常態化した時代」とも呼べる状況です。

データから見た「有事の金」の答え

20年分のデータを振り返って、自分なりに整理した結論はこうです。

「有事の金」は、短期的には必ずしも正しくない。
リーマンショックやコロナショックの直後には、金も一時的に売られています。
パニックの渦中では、金すらも現金化の対象になるからです。

ただし、中長期で見ると話が変わります。
有事のたびに、金の価格水準は一段ずつ切り上がっている。
2008年の2,937円が2011年に4,060円になり、2020年に6,122円になり、2025年には17,302円に到達した。

つまり「有事の金」とは、「有事になると翌日すぐ上がる」という話ではなく、「有事を経験するたびに、金の価値が長期的に再評価される」という意味で正しいと考えています。

経理マンとして数字を見てきた感覚では、金は「儲けるための投資」というより「資産の価値を長期で守るための保険」に近い存在です。

金投資を始めるなら知っておきたい3つの方法

データを見て「じゃあ金を持っておこうか」と思った方のために、代表的な3つの投資方法を簡単に整理しておきます。

ひとつめは現物購入。
金地金(インゴット)や金貨を直接買う方法です。
手元に実物を持てる安心感がある反面、保管コストや盗難リスクを考える必要があります。

ふたつめは金ETF。
証券口座で株式と同じように売買できます。
少額から始められて流動性が高いのがメリットですが、実物を手にするわけではありません。

みっつめは純金積立。
毎月一定額を積み立てて金を購入する方法です。
ドルコスト平均法の効果で購入単価を平準化でき、まとまった資金がなくても始められるのが強みです。

個人的に注目しているのは純金積立です。
毎月の給料から無理のない金額を積み立てていけるので、経理的な発想では一番「仕組み化」しやすい。

純金積立を扱う会社はいくつかありますが、たとえば株式会社ゴールドリンクのInstagramでは、金投資や積立に関する情報が定期的に発信されていて参考になります。
同社の「ゴールド積立くん」は購入金額が最初に確定する仕組みで、少額から始められるのが特徴です。

自分の場合は、毎月の給料から定額を積み立てる「仕組み化」を重視しているので、純金積立をメインに検討しています。
投資信託の積立と同じ感覚で運用できるのが、サラリーマンには合っている気がします。

どの方法が合うかは、投資経験や資金状況によって異なります。
大事なのは、自分のリスク許容度に合った方法を選ぶことです。
まずは少額から試して、値動きの感覚をつかむのがおすすめです。

まとめ

過去20年の金価格データを振り返ると、「有事の金」という言葉には確かな裏付けがありました。
短期的な値動きだけを見ると裏切られる場面もありますが、長期で見れば、有事のたびに金の価値は着実に切り上がっています。

2005年に1グラム1,619円だった金が、2025年には17,302円。
この事実だけでも、金という資産の底力がわかります。

もちろん、金価格が今後も上がり続ける保証はありません。
それでも、ポートフォリオの一部に「保険としての金」を組み込んでおく意味は、データが示してくれていると思います。

大きく儲けようとするのではなく、長い時間をかけて資産の価値を守る。
経理マンとしては、そういう地味だけど確実なアプローチが性に合っています。