ジェットディスペンサーは何が得?非接触塗布でタクトを縮めるコツ
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こんにちは。製造業向けコンサルタントとして20年以上、生産現場の効率化をお手伝いしている田中誠一郎です。特に、電子部品や半導体といった精密さが求められる業界で、数多くの自動化プロジェクトに携わってきました。
「生産タクトを1秒でも縮めたい」「歩留まりを改善してコストを削減したい」こうした声は、私が日々お会いする多くの現場責任者様から聞こえてきます。製造業の国際競争が激化する中、生産性の向上は企業の生命線と言っても過言ではありません。
もし、あなたが「塗布工程のタクトがボトルネックになっている」「微細な部品への精密な塗布がうまくいかない」といった課題をお持ちなら、この記事はきっとお役に立てるはずです。今回は、従来の接触式ディスペンサーの課題を解決し、生産性を劇的に向上させる可能性を秘めた「ジェットディスペンサー」について、そのメリットとタクト短縮の具体的なコツを、私の経験を交えながら分かりやすく解説していきます。
目次
ジェットディスペンサーとは何か
ジェットディスペンサーとは、ひとことで言えば「液体を飛ばして塗布する非接触式の液体塗布装置」です。従来のディスペンサーが、注射器のようにニードル(針)の先端をワーク(対象物)に接触させて液体を塗り付けていたのに対し、ジェットディスペンサーはニードルを接触させることなく、インクジェットプリンターのように液体を微小な液滴として高速で射出します。
この「非接触」という点が、生産性を飛躍的に向上させる鍵となります。
基本動作原理:ピエゾ素子による液剤の吐出
ジェットディスペンサーの多くは、「ピエゾ素子」という電気を加えると伸縮する特殊なセラミック部品を駆動源としています。ピエゾ素子に電圧をかけることで、ディスペンサー内部の機構が高速で往復運動し、その力で液体をノズルから弾き飛ばすのです。この仕組みにより、1秒間に数百回から、最新のモデルでは1000回以上もの高速な吐出が可能になります。
接触式ディスペンサーとの根本的な違い
接触式と非接触式の違いは、単に「触れるか、触れないか」だけではありません。生産工程全体に大きな影響を与える、以下のような根本的な違いがあります。
| 比較項目 | 接触式ディスペンサー | ジェットディスペンサー(非接触式) |
|---|---|---|
| 塗布方式 | ニードルをワークに接触させて塗布 | 液剤を液滴として飛ばして塗布 |
| Z軸動作 | 塗布ポイントごとに必要 | 不要(水平移動のみ) |
| 塗布速度 | 遅い(Z軸動作がボトルネック) | 非常に速い(最大1000Hz以上) |
| ワークへの影響 | 接触による破損リスクあり | 破損リスクなし |
| 複雑形状への対応 | 困難(Z軸の複雑な制御が必要) | 容易(クリアランス管理が容易なため) |
接触式では、塗布するたびにニードルを下降させ、塗布後に上昇させてから次のポイントへ移動する必要がありました。この「Z軸動作」が、タクトタイムを長くする大きな要因だったのです。ジェットディスペンサーは、このZ軸動作を完全に排除できるため、劇的なタクト短縮を実現します。
ジェットディスペンサーの主要メリット5つ
では、ジェットディスペンサーを導入することで、具体的にどのようなメリットが得られるのでしょうか。ここでは、生産性向上に直結する5つの主要なメリットを解説します。
1. タクト短縮の仕組み
最大のメリットは、やはりタクトタイムの大幅な短縮です。前述の通り、Z軸動作が不要になることで、塗布ヘッドはXY平面を滑らかに移動しながら、連続的に液体を射出できます。これにより、接触式と比較して数倍から数十倍の高速化が可能です。例えば、ノードソンEFD社の資料によると、ジェットディスペンサーは最大1000Hz(1秒間に1000回)という驚異的な速度での塗布が可能であり、これは生産ラインのスループットを劇的に向上させます。詳しくはノードソンEFDの解説記事も参考になります。
2. 高精度・微量塗布の実現
ジェットディスペンサーは、ナノリットル(nL)レベルという、肉眼では見えないほどの微小な液滴を、極めて高い精度で制御できます。例えば、武蔵エンジニアリング社の「CyberJet2」は、最小0.03mgという超微量な吐出を実現しています。これにより、小型化・高密度化が進む電子部品や半導体パッケージへの精密な塗布が可能になります。
3. ワーク保護と多方向対応
非接触であるため、ニードルが繊細なワーク(例えば、半導体ウェハー上の微細な回路や、医療用の薄膜フィルムなど)に接触して傷をつけたり、破損させたりするリスクがありません。これにより、製品の歩留まり向上に大きく貢献します。また、下向きだけでなく、横向きや斜め上向きなど、様々な角度からの塗布が可能な点も、接触式にはない大きな利点です。
4. クリアランス管理の容易さ
接触式では、ニードルとワークの距離(クリアランス)をミクロン単位で厳密に管理する必要がありました。このクリアランスが少しでもずれると、塗布量が不安定になったり、ニードルがワークに衝突したりする原因となります。一方、ジェットディスペンサーはある程度の距離が離れていても安定して塗布できるため、クリアランス管理が格段に容易になります。
5. 複雑形状への対応
ワークに凹凸や段差、反りがある場合、接触式ではZ軸を複雑に制御してニードルを追従させる必要があり、プログラムが複雑化し、タクトも長くなります。ジェットディスペンサーであれば、多少の凹凸はものともせず、一定の高さを保ったまま水平移動するだけで、正確な塗布が可能です。これにより、3次元的な複雑な形状を持つ部品への塗布も効率的に行えます。
タクト短縮の実践的なコツ
ジェットディスペンサーのメリットを最大限に引き出し、タクトを極限まで縮めるためには、いくつかの実践的なコツがあります。ここでは、私がコンサルティングの現場で重視している4つのポイントをご紹介します。
1. Z軸動作の最適化
ジェットディスペンサーの基本は「Z軸を動かさない」ことです。しかし、装置のセッティングによっては、不要なZ軸動作が残っているケースが見受けられます。塗布プログラムを見直し、完全に水平移動だけで完結できるように最適化することが、タクト短縮の第一歩です。
2. 液剤選択と粘度管理
ジェットディスペンサーは、その特性上、比較的低粘度の液剤を得意とします。液剤の粘度が高すぎると、うまく「飛ばす」ことができず、糸引きや塗布量のばらつきの原因となります。使用する液剤の粘度を適切に管理し、必要であればジェットディスペンスに適した液剤に変更することも検討しましょう。また、液剤の温度によって粘度は変化するため、装置の温度管理も重要です。
3. ノズル選択と距離設定
塗布する液滴の量やドット径に合わせて、最適なノズルを選択することが不可欠です。また、ワークとのクリアランスも、近すぎず遠すぎず、最も安定して塗布できる距離を見つけ出す必要があります。この最適値は、液剤の種類や塗布条件によって異なるため、テストを繰り返して最適なパラメータを見つけ出すことが成功の鍵となります。
4. システム設定のポイント
- 吐出周波数の最適化:装置の性能を最大限に引き出すため、可能な限り高い周波数で吐出できるように設定します。ただし、周波数を上げすぎると塗布が不安定になる場合もあるため、液剤や塗布パターンとのバランスを取る必要があります。
- シンクロスピード機能の活用:多くの最新装置には、ロボットの移動速度と吐出タイミングを同期させる「シンクロスピード機能」が搭載されています。これを活用することで、ロボットが停止することなく、移動しながら連続的に塗布できるようになり、タクトを大幅に短縮できます。
実装事例と成功事例
ある電子部品メーカーでは、スマートフォン向けの小型コネクタ製造において、手作業での接着剤塗布がボトルネックとなっていました。ジェットディスペンサーを導入し、上記のポイントを踏まえて最適化を行った結果、タクトタイムを従来の1/5に短縮し、さらに歩留まりも15%向上させることに成功しました。
2026年の最新技術トレンド
ジェットディスペンサーの技術は、現在も急速に進化しています。2026年1月に開催された「ネプコンジャパン」でも、各社から最新技術が発表されました。今後のトレンドをいくつかご紹介します。
- ピエゾ式の高周波駆動化:三栄テック社の「EXJET-HS」は最大2,500Hzという超高速駆動を実現するなど、さらなる高速化が進んでいます。
- 高粘度液剤対応の進化:従来は難しかった高粘度のペーストやグリスに対応したモデルも登場しており、適用の幅が大きく広がっています。例えば、高粘度対応のディスペンサ-として、プランジャポンプ式の製品も市場で活躍しており、高粘度液剤の定量吐出を実現しています。
- 新製品の特徴:武蔵エンジニアリング社の「SOLDER JET」のように、ソルダーペースト(はんだペースト)の塗布に特化した製品も開発されており、実装技術の革新が期待されます。
これらの最新技術動向については、武蔵エンジニアリングの出展情報などでも詳しく知ることができます。
導入時の注意点
最後に、ジェットディスペンサーを導入する際に注意すべき点を3つ挙げます。
- 液剤の相性確認:すべての液剤がジェットディスペンスに適しているわけではありません。導入前に、使用したい液剤で吐出テストを行い、安定して塗布できるかを必ず確認してください。
- 初期設定の重要性:ジェットディスペンサーは高性能な分、その能力を最大限に引き出すには、吐出圧力、温度、周波数、クリアランスなど、多くのパラメータを最適に設定する必要があります。メーカーの技術者と協力し、時間をかけてでも最適な条件を見つけ出すことが重要です。
- メンテナンスのポイント:ノズルは消耗品であり、定期的な洗浄や交換が必要です。特に、硬化しやすい液剤を使用する場合は、ノズルの詰まりを防ぐためのメンテナンスが欠かせません。メンテナンスのしやすさも、装置選定の重要なポイントです。
まとめ
ジェットディスペンサーは、単なる塗布装置ではなく、製造ライン全体の生産性を劇的に向上させる力を持つ、革新的なソリューションです。その「非接触」という特性は、タクト短縮、品質向上、そしてこれまで難しかった複雑な塗布の実現を可能にします。
もちろん、導入には初期投資や技術的なハードルも伴いますが、この記事でご紹介したメリットや実践的なコツを理解し、自社の課題と照らし合わせることで、その投資価値を正しく判断できるはずです。2026年現在、技術はさらに進化し、適用の可能性はますます広がっています。
あなたの工場の生産性を次のレベルへ引き上げるために、ジェットディスペンサーの導入を検討してみてはいかがでしょうか。




